悩みに出会ったら
ぼた衛門
ようこそいらっしゃいました!
私、おめでた屋の隠居で、あっぱれ長屋の大家の棚ぼた衛門とこちらが妻のふくです。
私らの時代、大家は雇うのが普通なんですが、
私は家持大家として直接店子の面倒を見ています。
えっ、店があって借家も持ってるなんて金持ちかだって？
そんなことはございませんよ。
もうとにかく色々大変で…
ふく
いらっしゃいませ。
おまえさんも何か悩みがおありなのかい？
なーに、そう心配しなくても大丈夫。
世の中、悩みのない人間を探すほうが難しいんだから。
もっともどんな悩みも、自分が悩みと思わなきゃあ、悩みにはならないんだよ。
まず、そのことを忘れないでね。
悩みの正体は、自分の「嫌だなと思う心、不安な心」が
生み出してる幻影なんだから。
ぼた衛門
悩むってのは、人間しかしないことだ。
つまり、人間だからできることとも言える。
それはなぜかというと、人間にはそれを解決する力があるからだ。
まず、自分に必ずあるその力を信じなさい。
そして、その悩みを克服したとき、
そいつは今度はおまえさまの人生の、かけがえのない味方になる。
悩みとの出会いは、味方が増える機会なんだ。
え？そんなきれいごとより、この悩みをなんとかしたいって？
こりゃ、だいぶ悩みにとっつかまってるねえ。
悩みとの戦いは、おまえさまたちの好きなげえむくらいにまず思いなさい。
人生とげえむとでは重さが違う？
もちろんそうだが、そのくらいに考えることで、心の余裕をまず作りだすこと。
力を入れてもがくより、まず力を抜く。
ふく
必ず勝つ方法はあるんですよ。
だって、悩みを生み出してるのは、
悩みと感じている自分なんだから。
自分が自分に課題を出してるんだから、
答えを知ってるのも自分。
そして、最後まで自分には勝つ力があると信じられる人が、
それを見つけられる。
ぼた衛門
ともかく、自分で作り出したものにふりまわされちゃあいけません。
人生の主役はおれだ、がたがた言うな！ってくらいの強気で行かなくては。
ふく
いかに悩みの魔の手にひっかからないようにするかです。
悩んでいる時って、頭から悩みが離れないでしょう。
それこそが、相手の思うツボ。
まずは気分転換、はい､深呼吸。
無理に、考えないようにしよう、明るくなろうとしても、
それがまた負担になってしまうからね。
そうではなくて、悩みを自然に忘れる時間を増やしていくの。
まずは、散歩でもなんでも、とにかく体を動かしてみなさい。
悩みを忘れないと、
それに押しつぶされてる悩みを解決する能力が
活動できません。
思い出せないって思ってたことが、他のことしてるときに
ふっと思い出せたりするでしょ。
あれと同じ。
ぼた衛門
気をつけてほしいのは、解決するために忘れるんであって、
逃げるために忘れるのではないということ。
悩みを見つけて、道の脇の藪の中に逃げ込み、
悩みをうまくかわしたと思っても、
それでは、その先に進めず、
ずっと藪の中にいなくてはならないことになる。
そのうちヘビでもやってきて、
ここにいれば大丈夫なんて言われて安心しているうちに、
金や心を抜き取られ、進むはずだった道までふさがれて、
出るに出られなくなる人もいる。
または藪にからみつかれ、もう駄目だと死ぬことしか見えなくなる人もいる。
逃げても解決にはならないんだ。
やっつけとかなきゃ、そいつはまた道に現れるよ。
そのたびに藪に逃げ込むのかな。
そりゃ、あまり格好いいやり方ではないでしょう。
ふく
とにかく、何度も言うけど、
人間は、誰でも悩みを解決する能力を持っているの。
それを活用できるかはおまえさましだい。
そうだ、ちょっとうちの長屋の連中に会っていってごらんなさい。
何しろ何事も前向きにとらえる人ばかり。
それともう一つ。
私たちは時々、２１世紀人のくるりって変人のところに行って、
茶のみ話をしてくるんだけど、そのときの話もここにあるから、
おまえさまの今の気分に合わせて、適当に見てみるのもいいよ。
もしかしたら、そういう中に、
今のおまえさまにひっかかるものがあるかもしれない。
何もなくて、もし時間を無駄にしちまったらごめんなさいよ。
でも、その無駄な時間も必要だよ。
だって、その間は、私たちのところに意識が来てるから、
心は悩みにがんじがらめにはなってないはずだからね。
ぼた衛門
気分が変わると運も変わるって言うから、気晴らしに行ってみなさい。
火事の多い江戸で、不思議にずーっと焼け残ってる運のいい長屋だ。
おかげで、おんぼろなんだけどな。
まあ、家はおんぼろでも、人間は気のいいのばかりだから。
ふく
さあ、長屋はこの裏です。
おめでた屋の小僧の茶さじ郎がちょうど来ていますから案内させましょうね。
茶さじ郎ちょっと。
お前のおっかさんたちのところにお客人を案内しておやり。
ここを訪れたのも何かのご縁。
よろしかったら、また時々来てください。
ぼた衛門
私らは暗い顔していた人が明るい顔になり、
明るい顔している人がもっとおめでたい人になってくれるだけで嬉しいんだよ。
あなたが元気で幸せになっていく姿を楽しみにしています。
はじめまして。
おめでた屋の小僧で茶さじ郎と申します。
それでは、長屋まで、ご案内させていただきます。
私は、あっぱれ長屋の住人のおはぎとどう造のせがれです。
私の名づけ親はご隠居さんなんです。
ご隠居さんは、｢おはぎとどう造の子、おはぎ、どうぞー」ときたら、
次は茶だろうということで、
最初、茶太郎とつけようと思ったらしいんです。
ええ、我が家の力関係ではいつもおっかさんが先に来るんです。
でも、長屋にいる大工のたて太郎兄いを見て、
どうも太郎はよした方がいいかなということで茶さじ郎になったようですけど。
さあ、あっぱれ長屋はこちらですよ！
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