メルマガ「あっぱれ長屋のプラス話」より 気分で読むバックナンバー


あっぱれ長屋の江戸っ子たちと現代人くるりのドタバタ人生談義

 気分がのらない時向き編  





バックナンバー総覧へ


メルマガ登録はのほ本屋から




 
                あっぱれ長屋のプラス話 第116号   

                  〜 腹がたったら目をこすれ 〜       
                                    2009. 11. 5




  くるり
   みなさん、こんにちは。
   今日のお江戸あっぱれ長屋からのお客様は、
   元武士、今や念願の町人の親又天之太助さんです。
  
  天之太助
   こんにちは。
   今日はな、私が武士だった頃に、
   藩医から聞いた別の藩の藩医の話だ。
   
  くるり
   またややこしい筋からひっぱってくる。

  天之太助
   その医者はな、殿が江戸で原因不明の病に伏した時、
   評判の医者がいるということで召し出され、
   見事に完治させて、江戸詰めの御目見得医師となったそうだ。
   お蔭で、身分、屋敷、お扶持も与えられ、
   それまでの苦しい生活からも開放された。
  
  くるり
   評判いいのに、生活が苦しかったの?
  
  天之太助
   庶民の医者だったから、
   薬礼も患者の払える額でしか請求しなかったし、
   ただで診てあげることもあったようだ。
   乞食とて、診てあげてたそうだ。
  
  くるり
   なかなか志高いね。
  
  天之太助
   だが、藩医になって箔がついたことで、
   患者も裕福な層が増えた。
   すると、
   「藩医らしく、それなりの薬礼をとらないと、
    殿様にも恥をかかす」
   ともっともらしいことをいう輩も現れたりして、
   段々、庶民からかけ離れた医者になっていったそうだ。
  
  くるり
   お金が入るようになったら、
   なお庶民のために頑張ってあげられそうだけど、
   世の中うまくいかないね。
  
  天之太助
   でも、これまでしたくてもできなかった、
   薬草の研究の費用が捻出できるようになった。
   苦労させてた家族にも楽をさせられる。

  くるり
   そうなると一概に責められないか。
  
  天之太助
   だが、それは理由付けであって、
   やはり慢心があったそうだ。
  
  くるり
   ではちょっとは責めてもいいか。
  
  天之太助
   いずれにしても、
   志の低さは、くるりには責められたくないだろう。
  
  くるり
   次。
  
  天之太助
   名医としての生活に慣れきったある日のことだ。
   大きな商家からの往診を終えて帰ってきた藩医が、
   駕籠から降りると、
   門前に一人の男が座っていた。
   昔、母親を診てあげていた、
   富蔵という男だった。
   薬礼も金子で払えずに、
   大根やらかぶやらを持ってきてたくらい、
   貧しい暮らしをしている男だ。
  
  くるり
   貧しい富蔵…、
   名前だけで泣ける。
  
  天之太助
   この富蔵が土下座して言うことには、
   母親の容態が良くない。
   今では診てもらえないことはよくわかっているが、
   そこをまげて、なんとか助けてもらえませんかと。 
  
  くるり
   またまた泣かせる富蔵…。
   先生も行ってあげるよね。
  
  天之太助
   それがことわったんだそうだ。
  
  くるり
   医は仁術、どこまで堕落したんだ!
   おまえ、それでも人間か!医者か!男か!
  
  天之太助
   くるりが、そんなに怒らなくても、
   富蔵も怒った。
   そしてこう啖呵をきったそうだ。
   「なんでえ、そのえらそうな口のきき方は。
    どんなにえらくなったかは知らねえが、
    おめえさんが今、
    名医としてふんぞりかえっていられるのも、
    患者あってのことじゃねえか。
    たくさんの患者がおめえを育てた。
    患者がいなかったら、
    おめえなんざはただの人間にすぎなかったんだ。
    その患者をないがしろにして、何が御典医様だ、
    世の中ってのは、
    必ずお互い様で成り立っている。
    それを忘れては、人間もしめえだな!」
  
  くるり
   おう、言ったれ、言ったれい!
  
  天之太助
   くるりが江戸時代の人間でなくて、
   本当に良かった。
   よけい、ややこしくなる。
  
  くるり
   でも、お金も払ってないのに、
   患者が医者を育ててやったと
   威張る富蔵さんもすごいね。
  
  天之太助
   おまえのご先祖じゃないか?
   似たとこあるぞ。
  
  くるり
   そんなはずはありません。
  
  天之太助
   医者は腹をたてて、
   そのまま家に入ってしまった。
   だが、よく考えてみると、
   腹がたつのは富蔵の言葉が的を得てるからだと気がついた。
   確かに、医者はどんな名医とて、
   患者がいなければただの人にすぎない。
   評判のいい医者となれたのも、
   これまで数多く庶民の患者を診てきた積み上げだ。
   その経験を上手に生かせたのは自分の資質かもしれないが、
   それを花開かせたのは、紛れもなく患者たちだ。
   乞食も診てあげたのは、
   一人でも多くの病人を救いたいという思いだが、
   それだけ症例を診ることにもなる。
   自分は無意識に病を治してやってるという立場にいたが、
   患者にとって医者がいなくては困るように、
   医者も患者がいなくては困る。
   これまで診てきた患者たちが、
   御典医という地位につけさせてくれたのだ。
  
  くるり
   江戸時代だったら、免許があるわけじゃないから、
   なおさらそうかもね。
   でも、実際は患者がいなくなることはないんだし、
   命を救う側の医者の存在のほうが大きくなるのは、
   致し方ないんじゃない?
  
  天之太助
   医者が大切な存在であればなおのこと、
   一部の人にしかその力を発揮しなかったら、
   その存在も小さくなってしまう。
   薬草の研究とて、いくらしたところで、
   一部の人のためにしか使わないものでは、
   意味がない。
   今の自分と、昔の自分を比べて、
   どちらが存在意義が高かったか、
   世の中の役にたってたか、
   生きがいがあったかを比べたら一目瞭然だ、
   そう思ったら、富蔵の家に向かっていたそうだ。
  
  くるり
   さっき責めないでよかった。
  
  天之太助
   言ったれ、言ったれい!とかは言っておったけどな。
  
  くるり
   そうだったっけ?
   でも富蔵さん、喜んだろうね。
  
  天之太助
   家に戻ってきた富蔵はな、
   いくら母親を救いたい一心からとて、
   金子も払えない自分を棚にあげて、
   とんでもないことをしてしまったと
   しょげていたんだ。
   そんなところへ、
   先生がやってきてくれたもので、
   恐縮するやら涙を流すやらで、
   心から詫びたそうな。
   藩医も、
   お互い様の真実に目覚めさせてもらったと、
   富蔵の手をとって心から詫びた。
   男二人、涙涙の感動の時間だったそうだ。
  
  くるり
   男二人で手をとりあってる時間があったら、
   早くおっかさんを診てあげたほうが、
   いいと思いますけど。
   でも、詫びる時もお互い様の心があると
   円満に収まるね。
  
  天之太助
   当たり前だ。
   実は富蔵は、子供の頃から喧嘩っ早くて、
   見かねた母親が戒めたのが、
   このお互い様を見る目の話だったんだ。
   自分に理があれば、相手にも必ず理がある。
   相手に非があれば、自分にも必ず非がある。
   これは天の道理で、
   だから本来諍いは起きようがないもの。
   だが、それがなかなか見えないのが人間だ。
   だから腹がたって、愚かな諍いに振り回される。
   つまり、腹がたつということは、
   お互い様の形が見えてない証。
   だから富蔵、腹がたったら、
   目をこすって、
   このお互い様の形をきちんと見よと。
   
  くるり
   さっきの富蔵さんは、
   相手の非だけを見て、自分の非は見てない、
   自分の理だけを見て、相手の理を見てない。
   だから、
   自分を棚にあげて怒ってしまい、
   後悔することになってしまったんだね。
   
  天之太助
   藩医も同じだ。
   恩をかけてやった目線で見てたから、
   腹がたったが、
   恩をかけてあげられる人間にさせてもらってた部分に
   気がついたとたん、
   出向いて謝罪する気にもなれた。
     
  くるり
   その話、大工のたて太郎にもしてあげたほうがいいよ。
   だいぶしなくなったようだけど、
   喧嘩っ早いのは、富蔵さんにも負けないだろうから。
  
  天之太助
   そのつもりだが、
   たて太郎より先に、
   くるりに聞かせてやろうと思ってな。

  くるり
   私を優先してたててくれるなんて、
   天さん、いいとこある。

  天之太助
   くるりの方が必要性が大きいから…
   いや、なんでもないぞ。
   その話を聞いた帰り道だ。
   その日は、雨だった。
   たまたま、私のそばを通った荷車が、
   水溜りに突っ込んで、
   そのしぶきをもろにうけてしまった。
   が、相手は曳くのに懸命で、
   全く気がつかず、
   そのまま行こうとしている。
   思わず腹がたって、
   「待たれい!」と言おうとした。

  くるり
   やだな、天さんも武士の時は威張ってたんだ。

  天之太助
   何も手荒なことをするつもりはない。
   ただ、気をつけよということを言いたかっただけだ。
   だがな、その時に、
   富蔵の母の話を思い出し、
   目をこすって、
   お互い様の目線で見てみた。

  くるり
   だけど、この場合、
   天さんは、ひっかけてないんだから、
   お互い様にはならいよね。

  天之太助
   いや、見えたぞ。
   自分も馬に乗ってる時、
   こうやって知らないうちに、
   同じことをしてるやもしれぬ。
   しかもかけられた人は、
   相手が武士だということで、
   文句も言えないで終わってるかもしれない。
   ということは、
   自分がここで怒るのは、ひどく滑稽なことになる。
   これは気をつけなくてはなどと考えてたら、
   腹をたてる暇など全くなかった。
   お互い様の目線は大したものだと思ったぞ。 
   
  くるり
   お互い様の形は広くて深い。
   だから、きちんと見なくてはならないんだね。
   でもその人、相手が天さんで良かったこと。
   しかも、ちょうど人が良くなってたところで。
   もし、威張ってる武士だったら、
   大変なことになってたよ。
     
  天之太助
   いやそうなったら、荷車の主より、
   武士のほうが、
   大変なことになる。
   威張るほど
   怒りも大きくなり、
   居丈高になるほど
   お互い様の目線からも、
   かけ離れていってしまうから、
   それだけ大きな怒りに振り回されてしまう。   
   
  くるり
   威張ることが良くないのは、
   そういう面でも、まぬけなことになるからだね。
   そこまで見えたら、腹立ちもかなり収まるはずだ。
   
  天之太助  
   この話には後日談がある。
   藩医は、このことで、
   再び庶民の医者となるべく、
   藩医の辞退を申し出た。
   殿は病を治してもらったことで、
   深く藩医を信頼しておったので、
   やめることは許さなかったが、
   「殿様から乞食まで診る医者はそうはいない。
    これはおもしろい、わしはかまわぬ。
    そもそも、患者としてはわしのほうが後釜だ。」
   と言ってくれた。
  
  くるり
   話のわかる殿様だね。
    
  天之太助
   名君と言われておった殿様だからな。
   そしてこうも言ったそうだ。 
   その富蔵とやらの目線で見れば、
   はばかりながら、
   わしが名君などと呼んでもらえるのも、
   領民に政をさせてもらい、
   名君と呼んでもらえる殿に、
   育ててもらったということになる。
   そう見ると、
   確かにわしの中にも、
   領民のためにしてやってるという
   驕りがあったやもしれぬ。
   その驕りが、
   そなたを庶民から取り上げてしまった。
   わしもそなたも、
   それを教えてくれた富蔵とその母には、
   礼をせねばならぬな。
   二人で、充分な治療をさせてやろう。
      
  くるり
   啖呵もきってみるもんだ。
   そんな棚ぼた展開になるなんて、
   すごい。

  天之太助
   おかげで母親は、
   金子の心配をすることなく、
   藩医調合の薬草で、
   すっかり元気になり、
   富蔵も江戸藩邸の下仕事をさせてもらうようになって、
   生活の目処をたてられるようになった。     
   だからくるりもな、
   腹がたった時には富蔵の話を思い出せ。
   
  くるり
   わかった。
   腹がたったら、目をこすって、
   お互い様の形を探して見る。

  天之太助
   そうだ。

  くるり
   見そこねた時には、富蔵さんみたいな啖呵をきれば、
   棚ぼた展開が待っている。 
  
  天之太助 
   今度は、
   くるりに腹をたてなくてすむ方法を
   探してこよう。
      


 
     
 (発行マガジンより、本文のみ掲載しております。)


前←気分がのらない時向き編

ランダムで読まれる場合は、以下よりお選びください。

バックナンバー総覧へ

1 気分がのらない時向き一覧 2 失恋や希望を失ってる時向き一覧
3 憂鬱で毎日に嫌気がさした時向き一覧 4 迷ったり悩んでいる時向き一覧
5 やる気を流し込みたい時向き一覧 6 幸せになりたい時向き一覧

メルマガ登録はのほ本屋から

このページのTOPへ





あっぱれぷらすサイト HOME TOP
 あっぱれ長屋へいらっしゃい案内  ぷらっとぷらす小路入口案内
 ・あっぱれ長屋のご隠居大家夫婦 
 ・あっぱれ長屋流明るい悩み方の鉄則
 ・おなか茶屋
 ・ある日のあっぱれ日誌
 ・メルマガ「あっぱれ長屋のプラス話」気分で読む バックナンバー
 ・のほ本屋
 ・松竹梅子の小遣い稼ぎの口入屋
 ・和・は・は
 ・オリジナル&メモリアル
 ・やる気元気癒しのCD伝言板
 ・楽して楽しく覚える英語
 ・SOHOやる気まん店
 ・はっけよい八卦良い占い部屋
 ・七福神占い
 ・潜在おみくじ










和・は・は ぷらっとネットショップ
あっぱれ長屋へいらっしゃい!

HOME あっぱれぷらすサイト案内


ご隠居大家夫婦

あっぱれ長屋流悩みに出会ったら


あっぱれ長屋の住人たち

あっぱれ長屋流明るい悩み方の鉄則


おなか茶屋

あっぱれ長屋流人生の進み方


メルマガ 「あっぱれ長屋のプラス話」
気分で読むバッグナンバー総覧


おまけ
ある日のあっぱれ日誌


ぷらっとぷらす小路

のほ本屋


松竹梅子の小遣い稼ぎの口入屋


和はは


オリジナル&メモリアル


やる気元気癒しのCD伝言板


楽して楽しく覚える英語


SOHOやる気まん店


はっけよい八卦良い占い部屋


七福神占い


潜在おみくじ



サイトマップ