あっぱれ長屋の江戸っ子たちと現代人くるりのドタバタ人生談義
失恋や希望を失ってる時向き編 
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あっぱれ長屋のプラス話 第75号
〜 恨みが先に来るからまた騙される 〜
2006. 11. 23
くるり
みなさん、こんにちは。
今日のお江戸あっぱれ長屋からのお客さまは、
大工のたて太郎です。
まずいところに来てくれたなあ。
たて太郎
なんだよ、その言い草。
なに隠したんだよ。
くるり
なんでもないよ。
相変わらず、よく足踏み外して落ちてるの？
たて太郎
最近は大丈夫だ。
くるり
そりゃ、良かったね。
たて太郎
落ちても、ちゃんと回転して着地できるようになったから。
くるり
猫か。
たて太郎
忍者みたいって言えよ。
お陰で、おいらが屋根に上っていると、
みんないつ落ちるか楽しみにしてくれている。
くるり
どうも間違った方向に行ってる気がする。
たて太郎
お、何隠したのかと思ったら、みかんか。
いいところに来たなあ。
くるり
あ、話に気をとられてるうちに、ばれてしまった。
たて太郎
人の気をそらさせようとして、自分が気をとられてら。
１個もらうぞ。
あれ？
なんだこれ、下のほうのは腐ってるぞ。
おめえが、度量の狭いこと言うから、
腐っちまったんじゃねえの？
くるり
あ、ほんとだ、くやしー！
まさか、たて太郎の呪い？
たて太郎
おいらがなんで、
そんなことするんだよ。
ったく、おめえらは、
なんでも人のせいにしたがるよなあ。
しかし、ひでえもん売ってる店もあるもんだなあ。
きっと、古くて傷む寸前のを下に入れて売ってたんだろ。
取り替えてもらってくれば？
くるり
それが、道端で大安売りしてたんだよね。
たて太郎
いつも、来てる奴じゃねえのか。
くるり
いや、あの時だけいて、後はみかけない。
たて太郎
そりゃ、騙される可能性は充分あるな。
くるり
許せない！
たて太郎
いや、安さに飛びついて、
得体のしれねえとこから買ったのはおめえだ。
さっきも言ったけど、
おめえらは、すぐ人のせいにしたがる。
だがな、騙される人がいるから、
騙そうとする奴がいるのもまた事実。
おめえが買ったことで、
向こうが騙すことになったとも言える。
くるり
じゃあ、騙したほうは悪くなくて、
騙された私が、悪者だって言うの？
たて太郎
そんなに、目をむくな。
騙したほうも、もちろん悪いさ。
だがな、責任は相手だけにあるものではねえってことだ。
おめえらはまず、自分は全く悪くないってところから入る。
だから、相手への非難が先に来る。
けど、江戸っ子は、
まず自分への非難が先に来るんだ。
くるり
うっそー！
たて太郎も？
たて太郎
「たて太郎も？」ってのは、なんだよ。
なぜ、騙された自分のうかつさを
最初にみるのか。
まあな、おいらたちのほうが、
人間できてるってこともあるけどな、
再び騙されねえためにも大切なことだと思わねえか。
相手のせいにすることが先に来たら、
怒りでそこんところがよく見えなくなる。
だから、また騙されるんだ。
くるり
じゃあ、江戸では、
騙したもん勝ちじゃないの。
みんなが、自分が悪いって思ってくれるんだから。
たて太郎
その時は、そのように見える。
でも、そんなあこぎな商売をしていれば、
信用がなくなるから、
商売を続けられない。
騙された方は学び、騙したほうは報いを受けるんだ。
ちゃんとそのように出来ている。
くるり
でも、一見の商売じゃ、その報いもないよ。
それがだめになる前に、
新たな手口を考えるだけだもん。
その場限りでうまいことやってるのが詐欺師なんだから。
たて太郎
あのな、腹はたつだろうが、
相手に天罰を下すのは、神様の役目だ。
そんな奴のために、おめえの人生時間を費やすこたあねえの。
おめえは自分のために自分の時間を使え。
だから、自分の落ち度を見るだけでいい。
ご隠居がいつも言ってるけど、
商いは、逃げも隠れもしないで続けることが、
何よりの信用の証になる。
だからこそ、行商人は店を構えることを目指すのだと。
その行商人だって、一見の人より、
いつも来る人という信用を積み重ねて商いをする。
信用は商いの命。
その命がないところから買う時は、
買うほうも、それなりの覚悟をしてから買え。
くるり
だめでもともとくらいの心境で、
お金を払わなくてはいけないのか。
たて太郎
幸い、日本では、
まともな商売をしているところのほうが多いから、
つい大丈夫という気になってしまうけどな、
中にはいんちき商売があるのも確か。
目先の欲につられて、そういう部分に目がいかない自分が
いたことは確かなんだ。
くるり
でも、そんな悟ったような心境には、なかなかなれないよ。
たて太郎
そりゃ、人のせいにしちまえば簡単だし、
自分は悪くないということになるし、
楽だもんな。
でも、自分の落ち度が見つけられないようでは、
また騙されると思えばできるだろ。
くるり
わかったよ。
でも、ちょっとくやしいから言いたいけれど、
騙される方にいるうちは人間でも、
騙すほうになったら、
もはや、人間終わってるよね。
たて太郎
おうさ、まさに金の亡者だ。
人間としての心をなくしちまってるから、
心でつながる人間関係が築けねえ。
利害関係だけで結びつく人しか、
周りにいねえ人生、
考えただけで寂しいだろ。
だから、その寂しさをごまかすために、
騙し取った金で楽しんでる気になってるだけ。
くるり
そういう意味では、
悪行の報いは、やっぱり受けてるかな。
そういえば、たて太郎の仕事でも、
２１世紀にはいいかげんな家を建てたり、
不要な修繕したりして、
お金を騙しとる悪いのがいるんだよ。
たて太郎
なんだと！
それは許せねえぞ！
くるり
そうでしょ。
ものがものだから、被害額も大きくなるし。
たて太郎
ますます許せねえ！
くるり
しかも、お年寄りを狙って騙すのも多いんだよ。
たて太郎
金輪際、許せねえ！
金の亡者もそこまで行くと、
二度と這い上がれねえな。
自慢じゃねえが、おいらは、体はよく落ちる大工だが、
心を地に落としたことは、一度もねえよ。
くるり
たて太郎は、金の亡者ではなく、
屋根の亡者かな。
たて太郎
殺す気かー！
おいらは、江戸で生きている。
それを言うなら、屋根の猛者と言え。
くるり
だって、江戸っ子が２１世紀に来てるって言ったら、
亡者以外に説明のつかない存在だよ。
私はさしずめ霊媒師。
たて太郎
霊感のねえ霊媒師か？
それこそ、詐欺師じゃねえの。
じゃあ、おめえが江戸に来たら、
亡者としても説明のつかねえ存在だから、
化けもんじゃ、だな。
なんだ、２１世紀にいる時と変わらねえのか。
（発行マガジンより、本文のみ掲載しております。）
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