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あっぱれ長屋の江戸っ子たちと現代人くるりのドタバタ人生談義

失恋や希望を失ってる時向き編  





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               あっぱれ長屋のプラス話 第86号   

           〜 捨てない希望と捨てる希望の見分け方 〜       
                                     2007. 7. 14   


  

   くるり
   みなさん、こんにちは。
   今日のお江戸あっぱれ長屋からのお客様は、
   噺家のへのへの亭もへじさんです。
 
  もへじ
   もへじです。
   今日は、あっしに一番合ってる
   希望の話。
  
  くるり
   もへじさんに合ってる希望の話というと、
   無駄な希望は捨てなさいという話だね。
  
  もへじ
   おあいにくさま。
   あっしには無駄な希望も、捨てる希望もねえな。
   なんてったって、希望というものは、
   自分の進むべき方向を指し示してくれるもの。
   だからこそ、希望がなくなると、
   行き先がわからなくなって迷い、
   やけのやんぱちになっちまうのよ。
  
  くるり  
   どんな時にも、希望をなくしてはだめだというのは、
   そのためなのかな。
   でも、いくら希望を捨てたくなくても、
   捨てなきゃならない希望ってのもあるじゃない。
  
  もへじ
   くるりの場合は失恋で、
   よくそういう状況になるからなあ。
  
  くるり
   ふん!悪うございましたね。
  
  もへじ
   捨てなきゃならない希望ってのは、
   しがみついていても、進路を示してくれない希望だ。
   そういう希望を捨てないでいると、
   未練がましい気持ちであきらめきれないまま、
   前に進めなくなってしまうんだよ。
  
  くるり 
   だけど、もへじさんの一流の噺家になりたいという希望も、
   似たようなもんでしょ。
   こだわるあまり年ばっかくってくだけで、
   前に進んでない。
  
  もへじ
   ふん!悪うございましたね。
   だが、進む方向性を見失ってねえ点が、
   くるりの失恋とは違うんだな。
   それに、進路を示してくれる希望と、
   示してくれない希望には歴然とした違いがある。
  
  くるり
   へえ、そのあたりが、
   あきらめてはいけない希望と、
   あきらめねばならない希望の一つの目安になるのかな。
  
  もへじ
   そうだな。
   それはな、その希望をかなえるには、
   他の人の意思が関係してくるものかどうかってことだ。
   たとえばの話、おめえがあっしに失恋して、
   あきらめきれねえとき、
   恋の復活を希望するには、
   あっしの意思なしではありえねえ。
  
  くるり
   そんなありえない例より、
   このほうがわかりやすいよ。
   もへじさんがいくら私にお金を貸してほしいと言っても、
   私が貸してあげる気にならなければ。
   希望はかなわない。
  
  もへじ
   そっちのほうが、よっぽどありえねえ。
  
  くるり
   そりゃ、実際に江戸のお金は貸せないけど、
   たとえばの話だよ。

  もへじ
   それはわかってるさ。
   そうじゃなくて、
   いくらあっしでも、自分より貧しい人から借りることは、
   ありえねえってこと。

  くるり
   なぬ?

  もへじ
   自分の希望に、
   他の人の意思が必要というのは、
   自分の要求を相手にのんでもらうことだ。
   そうやって、相手が道を譲ってくれたことによって、
   先に進めることになる。
   だがそういう場合、たいていは、
   うまく進んでいかれなくなる。
   なぜかと言えば、
   相手の譲歩を前提とした上でしか、
   進んでいけねえからだ。
   だから、自分が進むべき方向より、
   相手の動向に目が向いてしまうことが多い。
    
  くるり
   その点、もへじさんの希望は、
   他の人の意思は関係ないから、
   捨ててはいけない希望だってこと?
  
  もへじ
   そのとおり。
   あっしが希望を目指すには、
   自分の意思一つ。
   誰の譲歩も必要としねえ。
   むしろ、他の人の譲歩を必要としたら、
   おかしなことになる。
   お客さんに、笑ってくれ、おもしろいと思ってくれ、
   とお願いするようなもんだからな。
  
  くるり  
   でもね、たとえばもへじさんが所帯を持ってて、
   生活に疲れたおかみさんと、
   お腹をすかせて、
   ぴーぴーぎゃーぎゃー泣いてる子供がたくさんいたとしたら、
   その家族の譲歩なしに、
   希望に向かって進んではいかれなくなるでしょ。
   あきらめなきゃいけない希望になるよね。
  
  もへじ
   どうでもいいが、
   どうしてそういう家族設定になる。
   いいか、そうならないために、
   あっしは一人前になるまで、
   所帯は持たねえわけよ。
   そのくらいの覚悟を持って、やっているってこと。

  くるり
   とかなんとか言って、
   本当は女性にもてないから、
   所帯がもてないだけでしょ。
   どう、この掛け言葉、落語に使えない?

  もへじ   
   へたくそだな。

  くるり
   とか言いながら、なんで書き留めてるの?
  
  もへじ
   何事も肥やしにする精神だ。

  くるり
   肥やしかい。

  もへじ
   あのな、
   あきらめてはいけない希望の場合、
   希望の方から、人間を見捨てることは絶対にねえ。
   すべて、人間の方が希望を見捨てるんだ。
   だから、もし家族を養うためにあきらめたとしても、
   それは、あきらめさせられたのではなく、
   あきらめることを、自分で選んでるんだ。
   そこは、きっちり納得しとくべきだ。
      
  くるり
   反対に、あきらめるべき希望の場合は、
   希望は人間を見捨ててるが、
   人間が希望にしがみつこうとしている。
   だから、離さなきゃいけないものが、
   なかなか離せない。
  
  もへじ  
   さすがによくわかるなあ。
   良きにつけ悪しきにつけ、
   あきらめる時には、
   自分が納得しなくてはだめなんだ。
   捨ててはいけねえ希望を捨てて、
   自分の意思ではなかったとし、
   捨てるべき希望をいつまでも抱えて、
   人の意思にすがるのでは、
   どこにも、自分の意思がねえ状態になってしまうんだよ。

  くるり
   そんなでは、いつまでも幸せになれないね。

  もへじ
   だから、あっしの希望はあきらめるべきではねえし、
   くるりの希望はあきらめるべきということになる。
  
  くるり
   私、いつのまにか
   捨てるべき希望の代表者になってます?
  
  もへじ  
   でも安心しろ。
   捨てるべき希望を、
   捨てるべきでない希望にすることだってできるぞ。
  
  くるり
   え、それはどうするの?
  
  もへじ
   人の意思に頼る部分のない希望、
   自分の意思だけの希望にすればいいんだよ。
  
  くるり
   だって、失恋には相手の意思が必要でしょう。
   一人で盛り上がってたら、
   ますます逃げられる。
  
  もへじ
   相手にどうしたら振り向いてもらえるか、
   ではなく、
   相手が思わず振り向いてしまう状態を目指すことが、
   人の意思に頼らないことになる。
   つまりは、今より魅力的な人間になることだ。
   失恋で、自暴自棄になって崩れてしまう人と、
   心の痛みをしっかり糧にして、
   内面から魅力的な人間になっていく人の差というのはその違いだ。
  
  くるり
   確かにそれだと、
   自分の意思だけが関係する希望、
   自分の進むべき方向性が見える希望になるね。
   そうして、希望を達成させて、
   相手のほうから近づいて来させると。
   あ、でも相手を振り向かせようという魂胆では、
   人の意思に頼ってるから、うまくいかないね。

  もへじ
   そうそう、相手がどういう行動をとるかは、
   どうでもいい。  
   それに、相手が振り向いて来たとしても、
   今度は自分の気持ちが向かなくなってることが多い。
   人の意思に頼る希望が、
   無意味なことがわかると、
   自分をふった人に振り回されてた自分を、
   余裕を持った目で見ることができるようになるんだろうな。   
  
  くるり
   どうせつらい思いをするなら、
   そのつらさからしか得られないものを、
   しっかり頂かなきゃ損だね。
   何ごとも肥やしにする精神!
      
  もへじ
   人の意思に頼る希望は、
   方向性を示してくれない希望と言ったが、
   別の方向に行けばいいということは、
   教えてくれているんだよ。
  
  くるり
   あー!! くやしー!!
  
  もへじ
   な、なんでえ、
   びっくりするじゃねえの。
  
  くるり
   だって、これまで失恋は山ほどあったのに、
   全部無駄にしてしまったんだもの。
   もっと早くそれを知ってれば、
   今頃私は、相当いい女になっていたはずなのにい!
   くやしー!!!!!
   いや、まだ遅くない。
   これからも、失恋の機会はたくさんある。
   がんばろー。
  
  もへじ
   くるりの、この思考回路についていける男を探すのが、
   難しいんだな、きっと。 
  
  
  
  
 (発行マガジンより、本文のみ掲載しております。)


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