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あっぱれ長屋の江戸っ子たちと現代人くるりのドタバタ人生談義

 幸せになりたい時向き編  





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                あっぱれ長屋のプラス話 第123号   

                     〜 時 の 目 〜      
                                 2012. 8.19   


  
 
  はぎ
   おやまあ、うるさいこと。
   くるり〜!!
  
  くるり
   わ、びっくりした!
   おはぎさんか。
   悪いけど
   今掃除機をかけてるの。
   もう少し待ってくれる?
  
  はぎ
   あいよ。
   しかし21世紀の掃除ってのは大げさだねえ。
   ほうきで掃けばすむところを、
   わざわざ、こんなご大層なものを引っ張り出して
   ぴいぴいがあがあ大騒ぎしなきゃできないなんて。
   
  くるり
   でもね、これは
   細かなごみまで一気に吸い取ってくれるから
   便利なんだよ。
   おはぎさんも、ちょっと使ってみれば。
   あ、ここは終わってるから、
   そっちでやってみて。
   ここを押せば動き出すからね。
    
  はぎ
   と、体よく掃除を押し付けようという魂胆だね。
  
  くるり
   ばれてるか。
  
  はぎ
   まったく仕方ないねえ。
  
  くるり
   と言いつつ、
   本当は好奇心満々、やる気満々。
  
  はぎ
   ばれてるか。 
    
  くるり   
   その間に紹介しておくから。
   みなさん、こんにちは。
   今日のお江戸あっぱれ長屋からのお客さまは
   へっぽこ易者の旦那どう造さんを
   鼻で操るおはぎさんです。
  
  はぎ
   音で聞こえてないと思ってるだろうけど、
   しっかり聞こえてるよ。
  
  くるり
   へっぽこ易者撤回。
  
  はぎ
   撤回するのは「鼻で操る」のところだけでよろしい。
  
  くるり
   だそうです。
  
  はぎ
   それにしても、
   中途半端な時間に掃除してるね。
  
  くるり
   あ!それで思い出した。
   口紅を探していたんだ。
   そしたら、
   ごみに目がとまって、
   掃除を始めてしまって、
   そのうちへっぽこ易者のおかみさんが来て、
   そんなこんなですっかり忘れてしまってた。
   おはぎさんも一緒に探してください。
   あ、21世紀の口紅というのは、
   こういう形になってますから。
  
  はぎ
   って、今、その手にとったのは? 
  
  くるり
   あ、あった…。
   なんで、こんなところにあるんだろ。
   何度もここは見たはずなのに。
  
  はぎ
   そんなこと私が知るかい。
   それなら、最初からそこに置いてあったよ。
   なんだろうと思ったんだから。
  
  くるり
   不思議だなあ。
   あ、わかった。
   実はおはぎさんが持っていってて、
   今そっと置いたんだ。
     
  はぎ
   人聞きの悪いこと言わないでおくれ。
   くるりが節穴の目をしてるだけ。
  
  くるり
   だけど、ここ何度も見たんだけどなあ。
  
  はぎ
   さっき、くるり言ったよね。
   なんでこんなところにあるんだろって。
   ここにはあるわけないと思う気持ちが
   邪魔してたんだよ。
  
  くるり
   それにしても、
   この姿を必死に求めて探してたんだから、
   見たらわかりそうなもんだけど。
   そこまで私の目が節穴とは思えない。
  
  はぎ 
   では、節穴の目ではなくて、
   時の目かもね。
  
  くるり
   時の目?
   聞いたことない。
  
  はぎ
   当たり前。
   私が勝手にそう言ってるだけだもの。
   見ているのに見えていないのが
   節穴の目なら、
   まだ見える時が来ない為に見ることができないのを
   時の目と言う。
   もっとも、この場合を時の目とするなら、
   使いっ放しのくるりのだらしなさにあきれた神様が、
   神隠しで見えないようにしてしまった。
   そして、しっかり者のおはぎが行った時に
   説教させようってことで、
   見えるようになった。
   そういうことになるけど。
  
  くるり
   その説明には納得できません。
  
  はぎ
   ならやっぱり、節穴の目の方だ。
   確かにそこにあるのに
   見えてなかったってことは
   事実なんだし。
   それにくるり、
   今、くるりが既に掃除したというこの場所を、
   よく見てごらん。
   まだ、ごみがこんなに残っている。
  
  くるり
   や!おまえたち、また現れたか。
   これ、いつも不思議だったんだ。
   掃除の最中は、完全にごみを取りきれたように見えてるのに、
   掃除機を片付けた途端に
   取り残しのごみが見つかるの。

  はぎ
   これを見ても、
   くるりの目は節穴だということが
   わかる。

  くるり
   違うよ、今の話を聞いて、
   これは時の目だとわかったところだもの。
   つまり、このごみは、
   掃除機をしまった後にならないと見えないものなんだよ。
   だから、気にしても仕方がない。
     
  はぎ 
   何、都合のいいこと言ってるんだい。
   しかしね、
   その節穴の目をなんとかしなさいと言っても無理だろうね。
 
  くるり
   よくおわかりで。
   ついでに言うなら、
   時の目はもっと無理だよ。
   時を経なければ見えないんでしょ。

  はぎ
   もちろん、そんなこと言う気は毛頭ないよ。

  くるり
   そう素直に言われると、
   なんかちょっとは言って。

  はぎ
   へそまがりだね。
   でも、言っておくことはあるから安心おし。

  くるり
   え、あるの?
 
  はぎ
   この掃除機ってのは、
   へそまがりのへらず口は吸い込めないのかい。

  くるり
   残念ながらできませーん!
   …
   でも、江戸から来てしまうくらいのおはぎさんなら
   できてしまうかもしれない…。
   お、お話を承ります。

  はぎ
   人間には、
   あるのに見えていないもの、
   見ているのに見えていないもの、
   そういう部分があるってことを
   しっかり、自覚することだよ。
   そう思うとどうなる?

  くるり
   自分には全部が見えているわけではないと思えば、
   自然と慎重になり、
   より確かにしっかりと見ようとするかな?
   
  はぎ
   するかな?じゃなくてする!
   しかも、その見えるもの、見えてないものは、
   人によって違う。
   自分には見えてないのに
   人には見えている部分がある。
   そう思うとどうなる?

  くるり
   謙虚になって、
   人に対して、
   えらそうな態度に出たり、
   馬鹿にしたりしにくくなる。

  はぎ
   しにくくなる、ではなく、
   しなくなる!
   世の中にはよく、
   自分が正しいとばかりに人を非難する人がいる。
   でもそれは、自分の見えている部分だけにこだわっているから、
   そうなるんだ。
   けれど、
   その正しい自分には見えてなくて、
   非難する相手は見えている部分も、
   確実にある。
   それを知っていれば、
   どちらが正しいとか言う前に、
   相手に見えているものを知りたい、知ろうとする姿勢が
   できてくる。
   そうなるとどうなる?
    
  くるり
   お互いが、
   自分に見えている部分より、
   相手に見えている部分にこだわるんだから、
   解決への糸口が見えてくるかも…じゃなくて
   見えてくる!
  
  はぎ
   結果的に、見えてなかったものを吸収しあって、
   豊かな生き方にもつながっていくね。
   そういう姿勢でいれば、
   節穴の目はもちろん、
   時を経ないと見えないはずの時の目の開眼も、
   早まるってもの。
    
  くるり
   若いときには見えなかったものが、
   年をとって見えてくるっていうのも
   時の目かな。
   
  はぎ
   もちろんそうだよ。
   この間、うちの亭主も言ってたでしょ。
   江戸ではお年寄りは尊敬されているって。
   だから、その意見も大事にするけれど、
   それだって、お年寄りには、
   自分たちにはまだ見ることができないものが
   見えているってことを
   わかっているからだよ。

  くるり
   21世紀では、
   目上を敬う風潮が薄れてきてるけど、
   それを頭に入れておいたら、
   古臭いとか、ずれてるとか、
   納得できないとか、
   これだから年寄りは困るとか、
   そういうことには絶対にならないわけだ。

  はぎ
   ずい分、いろいろと出てきたね。
   普段、そう思われてるのかい。

  くるり
   まだ、そんなことを思われる歳ではありません!
   思う側です。

  はぎ
   なお悪い。
   
  くるり
   やられた…。
   この掃除機って、おはぎさんのへらず口も、
   吸い込めるようにならないかなあ。
  
  はぎ
   ともかく、節穴の目にせよ、時の目にせよ、
   百人いれば、百人の見え方がある。
   自分が見えてなくても、
   別の人には見えているという部分は
   必ずあるんだから、
   それを忘れず、謙虚に行きなさい。

  くるり
   と言われても、
   私はもとから、
   傲慢な態度をとったり、
   人を見下したり、
   偉そうに言うことはないし。

  はぎ   
   探している口紅の形を知ってるくせに見えてない人が、
   どういう形かを知らなくても見えてる人を盗人よばわり、
   ってことはあったけどね。 
    
  くるり
   み、み、みなさん、まだまだお暑いですから、
   お体に気をつけて。
   それでは、またね〜。
   



   
 (まぐまぐ発行マガジンより、本文のみ掲載しております。)


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