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                あっぱれ長屋のプラス話 第40号

                   〜無心から生まれる花〜             
                                    2005. 1.16   




  くるり
   みなさん、こんにちは!
   くるりです。今年もよろしく! 
   今日のお江戸あっぱれ長屋のお客様は、
   姉さんと茶屋をやってるおとめちゃんです。
  
  とめ  
   こんにちは。とめです。
  
  くるり 
   お姉さんのおなかさんは元気?
  
  とめ  
   相変わらず、色気もなく言いたいこと言って元気にやってるよ。
   恋の一つでもすれば、もう少し女らしくなると思うんだけど。
   まっ、姉の分まで、私が恋多き女だからいいんだけど。
  
  くるり 
   片思いの恋多き女と聞いたけど。
  
  とめ  
   こっ、恋にはかわりないんだから、いいでしょ。
   人を好きになるって気持ちが、いい女にするんだから。
   「野菊も咲くまでは只の草」って知ってる?
   野菊の花は、花が咲くまでは雑草とたいして変わらないけれど、
   花を咲かせると人目につくようになる。
   それと同じように、人の値打ちは何かあったときに、
   その人柄や才能が発揮されてわかるってことなの。
   でも、花を咲かすにも普段の積み重ねがなくっちゃだめじゃない?
   そのためには、片思いも、肥やしよ肥やし。
  
  くるり 
   肥やしの恋って、なんか臭ってきそう…。   
   でも、こんなところに、
   こんなきれいな花を咲かす植物があったのかって気がつくのは、
   花が咲いてからってことは、確かに多いよね。
  
  とめ
   しかも、植物って決して人に見てもらおうと思って
   花咲くわけではないでしょ。
   ただひたすら、黙々と芽を出し、葉を伸ばし、その積み重ねで
   きれいな花をつけるまでに成長する。
   それがたまたま、人の目にふれるだけのこと。
  
  くるり
   人には見てもらうつもりはなくても、
   花粉を運んでくれる虫には、見てもらいたいんだよ。
   奴にも魂胆はある。
   人間がひと花咲かすぞって言う時も野心があるんだから。
  
  とめ
   どうせなら、向上心って言いなさいよ。
   もっと言い方を考えてよね。
   
  くるり
   野菊は、別に努力して花を咲かせるわけではなく、
   自然の摂理で花開くだけじゃない。
  
  とめ
   そりゃ、はた目にはそう見えるけど、
   自分が芽を出した環境を受け入れて、
   そこでいかに根を張り、
   いかにより多くの水分や光を取り入れ、
   少しでもきれいでたくさんの花を咲かすか、
   ただひたすら、無心に成長に全力をかたむけるわけ。
   それがいつしか、きれいな花に結びつく。
   それを、自然体でやってるところが、
   人間にはなかなか真似のできないところ。
   でも、だからこそそういう姿を、
   人間は見習わなくてはいけないのではって、
   私思うんだ。
    
  くるり
   そうか、奴は、いや、野菊さんってえらいんだ。
  
  とめ  
   別に、野菊さんだけじゃなく、どんな植物でもそうだよ。
  
  くるり
   花を咲かせて、しかもおいしい実までつけてくれるものもあるしね。
   それを人間がかっぱらう。
  
  とめ
   収穫するって言いなさいって。
   ほんと、言い方を選びなさいよ。
  
  くるり
   植物って人間よりずっと偉大かもね。
   たとえ、人間や動物にとられてしまっても、
   花を咲かせたり、実をつけたりするんだから。
   人間だったら、せっかくの実を持っていかれるって考えたら、
   馬鹿らしくて実なんかつけるかって考えるけど、
   きっと、植物っていうのは、
   おめえらにくれてやってるのよって考えてるんだよ。
   そう思うと、ほいほい実をつける気になれるもん。
   
  とめ
   だから、その言い方をなんとかしなさいって。
   せっかくいいこと言ってても、
   ちっともそう聞こえないってば。
      
  くるり
   で、今は雑草のおとめちゃんも、
   そのきれいな花を咲かせるために、
   黙々と片思いの恋ばっかしを、
   次から次へと続けているんだね。
  
  とめ  
   どうもその言い方もひっかかるなあ。
   そもそもあたしはね、
   最初からきれいな花みたいなもんだから、
   そういう意味では、あまり努力の余地はないんだ。
   努力の余地がないってのも、つまらないものよ。
  
  くるり
   そのわりには、こんなところにきれいな花があったって注目されてないよ。
  
  とめ
   そっ、それは、みんなもう、見慣れてしまったのよ。
  
  くるり 
   私から見ると、雑草どころかまだ芽も出ずに、
   泥にまみれて土に埋もれてるように見えるけどなあ。
   あっ、わかった。
   おとめちゃんの場合は、花じゃなくて実のほうなんだよ。
   人目を引かないけれど、じつは埋もれてる土の中で、
   豊かな実を、日々肥えさせている。
   おとめちゃんは、野菊さんというより、
   根っこが実となるおいもさんなんだ、きっと。
   いつか、ごろんと掘り出されて喜ばれるよ。
  
  とめ  
   だから、もっと言い方を変えてチョーダイ…。

 (発行マガジンより、若干手直しして本文のみ掲載しております。)


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