あっぱれ長屋の江戸っ子たちと現代人くるりのドタバタ人生談義
やる気を流し込みたい時向き編 
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あっぱれ長屋のプラス話 第20号
否定言葉をちょっと変換〜「ない」ものの中にあるもの〜
2004. 4.11
くるり
今日は落語家のもへじさんです。
もへじさん、なんか冴えない顔してるね。
もへじ
おめえもだな。
くるり
冴えない顔は生まれつき〜、
冴えない頭も生まれつき〜。
もへじ
かわいそうに。ついにきちまったか。
あのなあ、違うんだ。
あっしが言ってるのは、「冴えない」の「ない」のことだ。
２１世紀人ってのは、
肯定言葉に「〜ない」をつけた否定言葉を本当に良く使うぞ。
くるり
でも、今のはもへじさんを心配して言ったんだからいいでしょうが。
もへじ
そうだな、悪かった。
どうも２１世紀人と話してたら、
「ない」が耳について「ない過敏症」になっちまったみてえだ。
ちょっと食事しててもな、
「そんなの、おいしくなあい」
「そんなの、食べたくなあい」
じゃあ、これなら食べられるかって言うと、
「いや〜ん、そんなの食べれなあい」
くるり
もへじさん、いったい、どこで誰と食事してんの？
もへじ
「食べれない」だと！
そんなふぬけた言葉使うな！
そういう時は「食べられない」って言うんだって言ったら、
「だって、こっちのほうが全然おいしい！」ときたもんだ。
おめえな、「全然」ってのは「ない」と対で、否定するときに使うんだ。
使わなくてもいいところで使うくせに、
使うべきところにつけねえなんて、
言葉をもっと大切に使え！
って怒ったら、
「腸むかつく」って行っちまった。
嫌いなもの食べたからって、腸がむかつくかってんだ。
食べ物さんに失礼だろが。
くるり
おっさん、おっさん、「ちょう」は「ちょう」でも、
ちょっと違うのよ。
もへじ
おっさんとはなんでえ。
あっしらは、精神年齢が高いから、年取ってるように思われがちだけど、
２１世紀人と実年齢で比べたら、ずっと若いんだからな。
あっしらも、２１世紀だったら、まだまだ若造！
嘘だと思ったら、歴史上の偉人を調べてみな。
こんなことを、この若さでやったのかって、きっとびっくりするぞ。
くるり
でも、もへじさんたちは歴史上の偉人じゃなくて、異人だもん。
くるり
うっ…、
とっ、とにかくだ、噺家のあっしとしては、言葉の間違いは気にかかる。
くるり
だって、言葉も時代とともに変わるんだから、仕方ないよ。
もへじ
ほら、また「ない」ときた。
くるり
だって「仕方ある」って言葉はないよ。
あっ、また出ちゃった。
もへじ
わー、もう本当にやめてくれえ！
くるり
相当きてるね。
もへじ
だって、会話を聞いてると、「ないない」づくし。
やれない、出来ない、おもしろくない…。
もう、じん麻疹が出そう。
くるり
じゃあ、無理とか駄目とか、違う言い方にしてあげようか？
もへじ
言葉を変えたって、意味が同じじゃな。
あのな、変え方があるんだ。
まず初めに、「ない」って言い切っちゃったら、そこでおしめーなのよ。
くるり
おしめは嫌だよ。
もへじ
おばちゃん、おばちゃん、ちょっと違うんだな。
くるり
私はおばちゃんじゃないよ！
もへじ
ほら、また出た。
くるり
いいえ、たとえもへじさんがじん麻疹だらけになろうと、
ここだけは目一杯使わせてもらいます！
もへじ
だって、あっしは２１世紀だったらまだ若造の年だけど、
くるりは２１世紀でも、もうおばさんでしょ。
噺家のあっしとしては、言葉の間違いは気にかかるんでい。
くるり
うっ…、なぜそこで反論できないのか、くるりちゃん…。
だけど、「ない」を使わないで話すなんてできないよ。
ほら、今もたくさん使っちゃった。
そのくらい、日常に深く溶け込んだ日本語だもん。
もへじ
もちろん、そりゃ不可能な話だ。
だがな、「ない」をつける頻度が高いやつほど、大損してるんだ。
くるり
だけど、本当にできないのに、
できるって言っちゃっても困るよ。
もへじ
だからまず、そう言う前に、前向き感の持てる言葉にしてほしいんだな。
くるり
できないじゃなくて、できなくはない…とか？
もへじ
なんか、ふやけた言い方だね。
どうしても「ない」をつけてえんだな。
いいか、「できない」って言うのは、
正確には「できないだろう」なんだよ。
予測して言ってるんだ。
くるり
そりゃ、今までの経験や知識でわかるから、予測で言えるんでしょ。
もへじ
だけど、おてんとさんだって、何かのはずみで西から上がる可能性だって
考えられる。
「そんなことは起きない」ってのは、今までの経験と知識から、
「多分これからもそんなことは起きないだろう」ってことだ。正しくはな。
そこを逆手にとって考えてほしいんだな。
「そんなこと起きない」という前に、
「では、それが起きるためにはどういうことが考えられるか」
「できない」と言う前に、
「では、どうしたらそれができるだろうか」、
「食べられない」と言う前に、
「では、どうしたらそれが食べられるだろうか」だ。
くるり
「おばちゃん」に反論できないなら、
「では、どうしたら反論できるようになるだろうか」だね。
もへじ
うーん、それはむずかしい。
くるり
そこで、真剣に悩むか。
もへじ
まあ、それはおいといてだな。
くるり
なぜ、おいちゃうのだ。
もへじ
とにかく、そう考えると、気持ちが前向きになる。
そのための道を探れる体制になるだろが。
予測で「できない」の一言でかたづけちまうってことは、
もうそう言った時点で、全ての可能性をふいにしちまってることなんだ。
くるり
じゃあ、もへじさんは、「〜ない」って言わないの？
もへじ
おう、それだけはあっしは自信があるね。
くるり
ほんとうに？
だってさっき、
「ない」を使わないで話すのは不可能だって、もへじさんも言ったでしょ。
もへじ
でも、あっしは、それができるんだな。
くるり
そんなに修行を積んでるとも思えないけど…。
あー、違う。
こういう時は、どうしたら思えるか、だった。
………うーん……ぜんぜん思えない…。
もへじ
ちっとは思え。
あのな、あっしは、言いたくても「ない」って言えねえんだよ。
な、このとおり、絶対使えねーだろ。
くるり
そういうことですかい。
（発行マガジンより、若干手直しして本文のみ掲載しております。）
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