あっぱれ長屋の江戸っ子たちと現代人くるりのドタバタ人生談義
やる気を流し込みたい時向き編 
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あっぱれ長屋のプラス話 第37号
〜有るものから有るものが生まれる〜
2004.11. 26
くるり
みなさん、こんにちは。
今日のお江戸あっぱれ長屋からのお客様は、
易者のどう造さんです。
どう造さん、どうぞう！
どう造
おめえも相変わらず、発想が変わらねえなあ。
今日はな、お話仕立てで考えてきたよ。
いつかたて太郎がしただろ。
だから、俺もひとつ考えてみた。
くるり
相変わらず、占いの客が少なくて暇だとみえる。
どう造
なんか、言ったか？
くるり
いやいや、別に…。
それより、早く聞かせてください。
どう造
あるところに、二人の兄弟が住んでいた。
家はおんぼろで、わずかばかりの田畑を耕して、
細々と暮らしていた。
弟は貧しい暮らしを嘆いて、ある日兄に言った。
「こんな狭い田畑とこんなぼろい家で、一生貧乏暮らしなんて我慢できねえ。
二人で町に出て、ひとはたあげないか」
兄は弟に言った。
「何を言ってるか、狭くても耕す田畑がある。
ぼろくても、雨露しのげる家がある。
それだけで、どれほど恵まれているか。」
くるり
その兄さん、欲がないのか、覇気がないかのどちらかだね。
どう造
そこで、弟は兄を残し、町へと出て行った。
くるり
弟は、不満を解消しようとする行動派なんだな、きっと。
どう造
残った兄は、それでもぼろ家を大切に手入れしながら住み、
まじめに田畑を耕し続けた。
手入れが行き届いているので、
ぼろ家ながらも清潔で、作物もよく育った。
くるり
まあ、そういう生き方もひとつの人生かもしれないね。
それはそれで、よしとするか。
どう造
何年かたったある日、町から弟が嫁をつれてやってきた。
町で始めた商いが成功し、今はこの嫁と暮らしているのだと言う。
くるり
弟は、ついに夢を実現したか。
なかなかやるもんだね。
嫁まで探してしまったとこみると、隅におけないね、こいつ。
それにくらべて、奥手の兄ちゃんよ、がんばれ！
でないと、嫁もこないぞ。
私がいってもいいけど、その兄さんっていくつ？いい男？
あっ、これは物語だったね、いやはや私としたことが、お恥ずかしい…。
どう造
おめえな、さっきからあーだこーだ、うるせーの。
少し黙って聞いてろ。
くるり
いいじゃないの。
思ったことをすぐ口に出すのが、くるりちゃんのいいところなんだから。
どう造
くるりの場合は、それがよくねーの。
いいか、続けるぞ。
弟は、兄にも町に来て、一緒に暮らすように言ったが、
おれはこれまでと同じで充分だ、
と言って笑うばかりだった。
くるり
男としては物足りない人だね。
そんなんだから、嫁もこないんだよ。
どう造
ところがどっこい。
兄のまじめな人柄をかって、
くるりとは比べものにならない、できたいい嫁がきた。
くるり
今、急遽話を作ったでしょ。
どう造
また数年たった。
田畑はたゆまぬ努力で、いい作物がとれるようになった。
品質がいいので、その男の作った作物を高く買い取りたいという人も現れ、
蓄えも増えていった。
そういうお金で畑を少しずつ買い足し、
やがて小さいながらも家も建て替えた。
そんなある日、弟が冴えない顔してやってきた。
兄は商売でも失敗したのかと心配して、弟に聞いた。
すると、商いも順調、子供も生まれたと言う。
では、なんでそんな幸せそうではない顔をしているのか。
兄は、弟に聞いた。
すると弟は言った。
しょせん、家と言っても小さな家だ。
しょせん、商いといっても小さなもんだ。
しょせん、女房と言ってもあの程度の女だ。
なんだかつまらねえ毎日だ。
次から次へと愚痴を言い出した。
だから、今度は都へ行ってひとはたあげたいが、家族がいてはそうもならぬ。
でも、おいらはこれで一生終わるのも我慢がならねえ気がする。
くるり
おっ、今度はその不満を原動力に、弟は都へ進出？
どう造
ところが、そうじゃねえんだな。
兄は弟にこう言ったのさ。
小さいときからそうだったが、
おまえは、いつもあるものではなく、ないものを見ている。
ないものを手に入れようとするお前の行動力は、素晴らしい。
だが、手に入れたとたんに、また別のないものを探そうとする。
それでは、永久に満足することはないぞ。
だから、いつも満ちたりない思いから抜けられないのだ。
くるり
兄さんらしいこと言うね。
確かに兄さんはやせたわずかばかりの畑とおんぼろの家を、
あるだけでもありがたいと、大事に大事にして、良くしていったもんね。
でも弟だって、ないなら手に入れようと、頑張ったんだよ。
どう造
それは、どっちも間違いではないんだけど、後が問題なんだ。
目標を達成したら、さらに次の目標を掲げる。
これ自体はいいことだ。
だからと言って、今までに得たものをないがしろに
しちまってはいけねえ。
今、確かにあるものの存在をしっかり感じること。
いいか、有からしか有は生じねえ。
無から有は生じねえんだよ。
くるり
だって、弟は無から有にしたんだよ。
どう造
「そうなりたい」という気持ちがあったじゃねえか。
気持ちがあっても、動かなければ無いのとおんなじ。
だから、気持ちがあっても動かなければ、何も生じねえんだな。
そして、今あるものに目を向けてなければ、
それもないに等しい。
だから、弟はいつまでも満たされねえ。
兄も弟もどちらも努力して、有るものを築いていったことに変わりはねえ。
ただ、その有るものを見ているか、見ていないかの差だけだ。
くるり
そういえば私の場合、たとえば、あれが欲しいわって思うでしょ。
それが手に入ってしばらくすると、興味がおさまって、
今度はこれがほしいわ、ってのばっかり。
そんなだから、いつまでも満足できない毎日なのね。
どう造
さすが、物欲にまみれたくるりらしい解釈だなあ。
くるり
それこそ、よぶんな口をはさまないでください。
どう造
一番大事なのは、有るものを見ていれば、感謝の気持ちになれるが、
ないものばかりを見ていれば、不満な気持ちになっちまうってことだ。
まあ、こんなところだな。おしまい！
くるり
なにそれ。
そんな尻切れとんぼの話なの？
どう造
ここまで考えたら、お客さんが来たんでね。
俺も、目の前に存在するお客さんのほうが、
何より大事だからな。
くるり
お客さんを大事にするのは、当たり前じゃないの。
もっとも、どう造さんの場合は、感謝の気持ちも人一倍だろうけど。
「おー！珍しく今日は一人お客さまがおみえになった、
大事に大事に、感謝感謝！」ってね。
どう造
それじゃあ、いつも誰も来てねえみたいじゃねえか。
くるり
だって、「いつもたくさんお客さんが来てるんでしょ」って、
見え透いたこと言われるより、よっぽど正直でいいじゃないの。
思ったことをすぐ口に出すのが、くるりちゃんのいいところ。
どう造
だから、おめえの場合は、そこが一番よくねーの！
（発行マガジンより、若干手直しして本文のみ掲載しております。）
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