あっぱれ長屋の江戸っ子たちと現代人くるりのドタバタ人生談義
幸せになりたい時向き編 
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あっぱれ長屋のプラス話 第30号
〜見えてないのは自分だけ〜
2004. 8. 20
くるり
今日は茶屋のおなかさんの妹、おとめちゃんです。
とめ
こんにちは。
くるり
あれ、カメラなんか持ってる。
江戸時代人が持っていたらおかしいよ。
とめ
２１世紀で使う分にはいいじゃない。
くるり
だって江戸時代に写真が登場するのは幕末でしょ。
しかもまだ一般的ではなかったし。
だいたい昔の人は、魂が抜かれるとかって、
手を袖の中に隠しながら撮ってたでしょ。
おとめちゃんは平気なの？
とめ
怖がりながらもけっこう撮ってる人がいるのは、
江戸時代人は実は好奇心が旺盛なのよ。
でも私は自分じゃなくて、
くるりさんを撮ってあげてたの。
くるり
隠し撮りかい。
それはよくない。
とめ
いいじゃない。
私とくるりさんの間柄なんだから。
くるり
どういう間柄よ。
では、どんな写真を撮ったのか、見せなさい。
とめ
ごらんくださーい！
くるり
ぎゃー、
なんでこんな怖い顔してたり、
ぶーたれた顔してたり、
老けた顔してる写真ばかりなのー！
とめ
この怖い顔はね、自動改札でのくるりさん。
両方から入れる改札で、
向かいで人が切符入れようとしてるのがわかってるのに、
自分の切符を先に入れて通れなくして、
自分がゆうゆう先に通ってしまったでしょ。
くるり
そんなの早いもの勝ちだよ。
だいたい、専門家でもないのに、
カメラ持ち歩いて撮りまくってる江戸時代人も変だけど、
自動改札にそんなにくわしい江戸時代人も変だよ。
とめ
だから、江戸時代人は好奇心旺盛なの。
って、話をそらすない！
くるり
見破られたか。
だって、あのときは、電車がきそうだったから、
早くしないとって思ったんだよ。
とめ
電車は出たばっかりだったよ。
くるり
うっ、そんなことまで…。
とめ
あのとき、向こう側の人は、
一瞬くるりさんに文句言ってやろうかと思ったのよ。
だってふだんは、向こう側から来る人用に使ってる改札なんだもん。
本来なら優先権は向こうにあるんだから。
でもね、一人くらい先に通したところで、
そんなに腹立てることないって考え直したの。
そこを、くるりさんはこの怖い顔で通っていったわけ。
馬鹿まるだしー！
くるり
でも、競争には勝ったからいいもーん！
とめ
くるりさんは、勝ったつもりでいるだろうけど、
実はくるりさんは負けてるわよ。
くるり
なんで？
とめ
確かに通ったのはくるりさんが早くて、
勝ったようにみえる。
でも、それはくるりさんの我を通した結果でしょ。
くるりさんは隣の改札にまわるちょっとの手間を惜しんで、
強引に奪ったんだもん。
くるり
だってさ…、
とめ
待ってた人はこうも思ったの。
まあ、この怖い顔この人に見せてあげたい。
同じようにはりあえば、私もこんな怖い顔になるんだわ。
ほんと、感心する人だったよ。
だから、私がこの人に代わりパチリ！
くるり
だから、撮るな。
とめ
これでこの人は徳とツキを増やし、くるりさんは減らした。
だから、本当はくるりさんの負け。
くるり
でも、現実には目に見えないものより、
目に見える形での勝負が優先だよ。
だいいち、勝ってすっきりしたんだから。
とめ
ならなんでこんな怖い顔してるの？
くるり
それはさ、相手に睨まれたとき対抗できるように、
怖い顔しなくちゃ。
とめ
でもね、ここでくるりさんが、
「すみません」って一言かけていったとしたら、
どうだったでしょう。
向こうの人も、それなりに人間できてた人だったんだから、
そう言われたら、むっとした気持ちがすっと和らぐはずよ。
ああ、あの人は急いでるんだなって。
そうできてたら、くるりさんも我を通しても、
そんなに徳とツキを減らさなくて済んだはず。
くるり
うーむ、でもなかなかそこまで人間できてないもんで。
とめ
だから、向こうの人のほうが上でしょ。
だいたい、人間できてないのに、徳を減らしたら、
ますます人間離れしてしまうじゃない。
今でも、充分人間離れしてるのに。
くるり
なんかおっしゃいました？
で、このぶーたれた顔は？
とめ
それはくるりさんが、この間、口げんかしてたときの顔。
ほっんと、気が短いんだから！
くるり
なんだか、ストーカーにつけまわされている気分だ…。
とめ
人間てね、ふだんの自分がどんな顔をしているかは、
自分より他人のほうがよくわかるのよ。
くるり
それ、考えたら怖いことだなあ。
とめ
人をののしったりしているとき、
どんな醜い顔をしているかなんてのも、自分ではわからないでしょ。
そういうときに、鏡見ている人はいないからね。
だから、こういうひどい顔してるんだよって見せたくて。
こういう顔でこられたら、相手だって不快になるのはわかるでしょ。
くるり
うーむ、これはもうちょっとましな顔で口げんかするように考えないと。
とめ
ふつうは、けんかしないようにしようって考えるのが、先だと思うけど…。
あのね、くるりさんの気持ちは、くるりさんが一番よく知っているわよね。
でも、くるりさんよりくるりさんの表情をよく見られるのは、周りの人。
仮に気持ちを隠したつもりでいても、
自分では気がつかない瞬間に表情に出てたりするもの。
今の自分がどんな顔してるかを、いつも自分で見られたら、
変わる人はたくさんいると思うよ。
くるりさんだって、まさか自分がこんな顔しているなんて、
気がつかなかったでしょ。
くるり
まあね。こんな顔してたらツキも逃げてしまいそうだね。
そうしてみると、こうして教えてもらったのは良かったかも。
これからも時々教えてね。
とめ
さっきまでは、むかついてる表情がちらほらしてたけど、
今の表情は本当にそう思ってるみたいね。
くるり
言っとくけど、くるりちゃんは根は素直だからね。
で、問題はこの老けた顔よ。
これは、何をしてたとき？
これこそ、しっかり聞いとかなくちゃ。
とめ
どれ？
あー、それは別になんでもないよ。
普段のふつうの顔よ。
くるり
やっぱり２度と撮るなー！
（発行マガジンより、若干手直しして本文のみ掲載しております。）
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