おまけの
「あっぱれ長屋にいらっしゃい」の江戸っ子達の一こま
| ある日その壱 | 自分の不幸は蜜の味（ある日のどう造の辻占い屋） |
| ある日その弐 | 浪人天さんの母来たる（ある日の長屋） |
| ある日その参 | ♪おとめのいかり（ある日のおなか茶屋） |
| ある日その四 | 茶さじ郎の薮入り（ある日の長屋） |
| ある日その五 | おとくの花嫁紹介？ （ある日のおなか茶屋） |
| ある日その六 | 易より山勘（ある日の長屋） |
| ある日その七 | 雨降りの日は酒盛りの日（ある日の長屋） |
ある日その七
長屋でのある日 雨降りの日は酒盛りの日
ある日の住人 たて太郎 天之太助 おはぎ どう造
どう造
たて太郎、いるかい？ちょっと将棋の相手でもしてくれねーか。
たて太郎
どう造さんか。どうぞう。
どう造
相変わらず、くだらねえ洒落だなあ。
しかしなんだね、こう３日も４日も雨に降られちゃ、お互い商売にならねえな。
たて太郎
まったくでい。よくここまでしゃばしゃばしゃばしゃば振ってくれるよな。
体中からカビが生えてきそうだぜ。
どう造
その心配はいらねえよ。商売できなくて、干上がっちまう方が先だからな。
たて太郎
うまいねー、今度もへじに教えてやれ。
天之太助
いるかい？やあ、先客がござったか。
ちょうどいい、呼びにいこうと思ってたとこだ。
どう造さんもどうぞう。
どう造
まだ、おんなじのがいたよ。おっ、酒かい。
こりゃ、いいね。雨のおかげで昼間から酒が飲めるか。長雨もまたよろしだね。
たて太郎
天さんもこの雨では、青空道場は開けねえもんな。
天之太助
あー、この雨にはまいったな。
どう造
そういえば､花嫁修行と縁組斡旋をやるって話、
おとくさんはけっこう乗り気みたいだね。
天之太助
もとから、自分が思ったらとっぴなことでもやりだす奴だからね。
あながち夢物語でもないかもな。
たて太郎
やっぱり似たもの夫婦だな。
天之太助
そうそう、なんかこの間は、花嫁だけじゃなく、
花婿にも修業をさせようかと言ってたぞ。
たて太郎
花嫁修業はともかく、花婿修業って何するんだ？
天之太助
花嫁修業と同じよ。とくは殿方にも家事や子育ての仕方は教えた方がいいって。
どう造・たて太郎
へっ？なんだそれ。
天之太助
おとくが言うには、大の男がいくらいばっても一人では飯も食えねえ、
自分のことどころか自分の子どもの面倒もみれねえっていうのは、情けない。
妻を母代わりとして考えているようでは、たいした男になれんぞということらしい。
どう造
耳がいたい。
天之太助
いや、お前さんより私の方がもっとこたえるぞ。
確かに、おとくがいないと、飯も作れず自分のふんどしのありかもわからん。
たて太郎
その点、俺は自分で管理しつけてるから心配ねえな。
いつも、１枚は洗濯中、残りの１枚は俺がしているんだ。探すまでもねえ。
どう造
それじゃ、こんな雨続きで乾かないときはどうするんでえ。
たて太郎
乾くまで変えない。
どう造
汚ねえな。急になんか匂う気がしてきたぞ。
天之太助
よしんば、嫁さんが見つからなかったとしても、
自分のことは自分でできるようになれば、やった甲斐があったということになる。
どう造
なるほど。俺も習うかな。ついでに新しい嫁さんも紹介してもらうか。
はぎ
何を紹介してもらうんだい？
どう造
ヒッ！
はぎ
あれま、雨をいいことに３人で昼間っから酒盛りやろうてのかい。
しようがないね。
たて太郎に煮っころがしを持ってきたんだけど、ちょっと待ってな。
もう少し持ってくるから。
たて太郎
ありがてえ。やっぱりおはぎさんは偉大だ。
どう造
しかしあれは、本当に酒と金のあるところをかぎつける能力には
長けているんだよな。
はぎ
ほら、持ってきたよ。
天之太助
まあ、おはぎさんもせっかくだから、やってくれ。
はぎ
あたしはいいよ。素人女が酒飲むのもはばかられるのに、
まして昼間っから飲んでるんじゃ、罰当たるよ。
天之太助
まあ、そう言わず。
これは、昔の知り合いが届けてくれた灘からの下り酒だぞ。
はぎ
これ以上断ったら失礼だからちょっと頂こうかね。
どう造
おまえはうわばみだからな。控えめにしろ。
はぎ
わかってるよ。
うーん、これはいけるね。
やっぱり、違うねえ。
天之太助
しかしおはぎさん、この煮っころがしもうまいねー。
おはぎさんは、本当に料理が得意だね。
どう造
はぎはそれだけが、取り柄だ。
人間誰しも一つくらい取り柄はあるからな。
天之太助
そうだ、おはぎさん、もしとくが花嫁修業をやったときは、
賄い部門を担当してもらおうか。
はぎ
あたしがかい？あたしは庶民的なもんしか作れないよ。
天之太助
それでいいんだ。毎日食べるものなんだから。
はぎ
どうせやるなら、花婿修行もやりたいっておとくさんが言ってたから、
そっちの担当がいいな。
若い女相手に引き立て役になってるより、
若い男に囲まれた紅一点がいいじゃないか。
どう造
花婿担当だって、引き立て役には変わりねえだろ。
大体、オメエじゃ紅一点じゃなくてえび茶一点ってところだ。
たて太郎
おはぎさんよー、だいたい、色男は花婿修業までして嫁さん探しなんかしねえぞ。
そんな奴は女がほっておかねえ。
そんな努力もしねえよ。
外見におぼれて、これまた外見しか見ない馬鹿な女と一緒になってらあ。
はぎ
おまえが言うと、なんかひがみに聞こえるね。
でもそれならおまえは、たくさん努力ができるから良かったじゃないか。
さーて、これ以上居座ると全部飲んじまいそうだから、あたしは行くよ。
ご馳走さん。おいしかったよ。
たて太郎
本当に早く帰ったね。
遠慮して控えたのかね。
どう造
馬鹿ヤロウ。どこが遠慮してんだよ。
見てみろ、酒がほとんどなくなっちまってらあ。
残ってるだけでも奇跡ってもんだ。
おれはいつも不思議に思うんだが、
どうやったら、あんな短時間でちょっとのふりして、
こんなにたくさん飲めるんだろな。
口から飲んでるふりして、体中で吸い込んでるとしか思えねえんだよ。
たて太郎
じゃ、化けもんか？
言われてみれば、確かに化けもんみたいな顔かも…。イテッ。
どう造
人の女房つかまえて化けもんとはなんだ。
亭主のおれでも、思っても口に出したことないのに。
たて太郎
おっさん、なんかどっか違うぞ。
天之太助
まあまあ、よくできた女房殿なんだから、たとえ化けもんであろうがなかろうが、
どっちでもいいだろう。
どう造
おっさんも、なんかどっか違うぞ。
天之太助
それよりな、安心してくれ。
実はな、ちゃんともう一本あるんだよ。
こっちはさっきのよりいい酒だから、後のお楽しみにと思ってな。
そのうちもへじも帰ってくるだろうし。
どう造
そんな極上物ばかりお相伴にあづかっていいのかい。
ありがてえ、すまねえな。
それでは…やりますか。
はぎ
またまた、ごめんよ。
ほら、漬物がいい具合に漬かってたから、持ってきたよ。
あれー、みんなどうしたの。
もうぶったおれちまったのかい？
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